A(エース)社会保険労務士法人の足立徳仁です。
このコラムでは、人事・労務に関する様々なQ&Aや法改正情報、助成金・補助金などの新着ニュースをお届けしてまいります。
今回のテーマは「試用期間後の本採用見送りのリスクと対応方法」についてお送りいたします。
試用期間とは、面接だけでは把握できない業務適性を確認するために、実際に働いてもらい見極める期間をいいます。
本採用をするかどうかを最終決定するための期間であり、試用期間中の勤務状況によっては本採用を見送る判断もあり得ます。しかし試用期間中の勤務態度や業績が基準に満たなかったとしても、本採用見送りが法的に認められることはあまりありません。ただし適切に運用をすれば、本採用の見送りが認められる場合もあります。 運用が難しく、労使紛争や法令等違反につながる恐れのある試用期間の概要や導入・運用方法について確認しましょう。
試用期間の概要
試用期間では、実際に一定期間従業員を就労させて、適性があるかどうかを判断します。 試用期間には、新しく入社する従業員の成長意欲を促せるというメリットもあります。試用期間中に達成してほしい目標を具体的に示すことで、力を入れて取り組むポイントを明確にできるためです。 試用期間中は「本採用されないかも」という不安を抱えながら働く従業員にとって、評価される項目が明確で、頑張りの方向性が分かっていることは重要です。制度の透明性を高め、試用期間制度を有意義に活用しましょう。
試用期間の法的性質
注意点は、試用期間中も労働契約は締結されており、独立した「お試し期間」ではないということです。つまり「本採用を見送る」という扱いをしたとしても、「解雇」であると判断されます。解雇はさまざまなリスクの原因となるため、本採用を見送る場合には、解雇が認められるかという観点で検討をしなければなりません。 解雇の有用性の判断は裁判所が下します。その際、試用期間が適性や能力を見るための期間であるということが完全に無視されるわけではありません。試用期間の趣旨を踏まえ、一般的な能力不足による解雇よりは少しだけ緩やかな基準で判断されることが多いです。 正式採用の前に試用期間としての有期雇用契約を締結し、能力や適性が合格基準に達しているという場合には、有期契約の終了後に無期契約を締結するというケースも見られます。 しかし、有期雇用契約を締結した目的が「従業員の適性を判断するため」であったときは、試用期間と判断されてしまいます。つまり有期契約はなく、最初から無期契約を締結したと見なされます。能力や適性がないと判断し、有期契約が満了しても無期契約などを締結せずに契約関係を終了させた場合でも、当初から無期契約が締結されていたものとして、違法な解雇をしたと判断されてしまいます。
試用期間満了後の本採用拒否
試用期間の終了後、従業員の適性を考慮し本採用を見送りたい場合の契約解除(解雇)は、通常の解雇と比べると企業側に認められる自由度は大きいと考えられていますが、実際には認められることはほぼありません。
【認められる可能性があるケース】
- 面接では見抜くことができない事情があり、その事情を知っていれば採用をしなかった
- 同業種の他社でも、同様の扱いをする可能性がある
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事情については極めて厳格に判断されることから、本採用を見送ったことについて争った事案では、会社が敗訴してしまう、または高額な和解金を支払わなければならないケースが多くみられます。 とくに、新卒採用者の場合は、極めて難しいといわれています。そのため、安易に本採用を見送ることはできないものと考えておくことを推奨します。
ケース別 本採用見送りの対応について
試用期間中や試用期間満了をもって本採用を見送りたいときの、試用期間導入前に押さえておきたいことと、本採用見送りを考えた際に対応すべきことをケース別にご紹介します。
1.業務を行う能力や適性がないと判断した場合
その業務にどのような能力や適性が必要なのかを、企業自身が把握し明確化しておく必要があります。企業が判断基準を持っていないにもかかわらず、能力不足を理由にした本採用見送りは、労使紛争に至った場合に敗訴または高額な和解金の支払の要因になりかねません。試用期間に入る前に評価項目と評価基準を作成し、従業員にどのような基準で判断するかを説明してください。 また能力不足であると感じた場合にも、改善を図るよう指示しきちんと教育をする姿勢をとりましょう。企業には従業員を育成する義務があります。どのような基準で評価するかを決めたうえで、しっかりと研修や指導を行い、それでも一定のレベルに達せず、かつ今後も改善の見込がないという場合に、本採用見送りが認められる可能性があります。 新卒採用者の場合は育成が前提になっているため、能力不足を理由に試用期間だけで本採用を見送るということは、ほぼ認められません。
【業務を行う能力や適性がないと判断した場合】
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2.勤務態度が悪い場合
書面などの記録で証拠を残すことが大切です。欠勤や遅刻の勤怠記録を付けることはもちろん、欠勤や遅刻の回数が多い場合には書面で指導してください。また、業務命令に違反した場合にも同じように書面で命令を行い、指導を行った証拠を残してください。 また、遅刻のような記録に残しやすいものではなく、上司や同僚等への態度が悪いなどの理由で本採用を見送る場合には、「いつ」「誰に対して」「どのような状況で」「どのような言動を行い」「その言動に対してどのような指導をし」「態度が変わったのか否か」ということを、詳細にメモで残すことが重要です。この場合にも、指導は書面でも行ってください。
【欠勤、遅刻、業務命令違反など勤務態度が悪い場合】
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3.勤務成績が悪い場合
試用期間前に、企業が設定している目標を具体的に共有してください。そのうえで本採用を見送る場合には、目標にどの程度届かなかったのか、届かなかった理由は何だったのかも具体的に説明しましょう。 重要なのは「具体的に」という点です。可能な限り数値目標を設定し、そのうえで達成できるように必要な指導や研修を行ってください。 数値目標が採用したての新人にとってそもそも無茶な内容であった場合には、本採用を見送り後に労使紛争に至ったとき、敗訴または高額な和解金の支払の要因になりかねません。
【勤務成績が悪いと判断した場合】
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以上のように、トラブルを避けるためには労務管理の記録をしっかりと残すこと、改善のために企業が努力をすることが求められます。また、就業規則に「試用期間の内容によっては解雇する可能性があること」や、採用基準などを具体的に記載しておくことも大切です。
試用期間の長さと延長
試用期間の長さは法令等上定められていません。しかし、あまり長い期間になると従業員の地位を不安定にさせるため、適性判断に必要な期間以上の試用期間を設けることは無効とされる恐れがあります。 また従業員に対して「冷遇されているのではないか」と疑念を生じさせてしまい、モチベーション低下にもつながる恐れがあります。そのため、職種ごとによって期間は変わりますが、最長でも6か月が理想的です。 最初の試用期間で適性を判断できず、期間を延長したい場合には、十分な措置を講じる必要があります。具体的には就業規則に定めを置き、個別に合意を取ってください。その際、延長することを伝えるだけではなく、本採用のレベルに届かなかった部分はどこか、何ができたら合格となるのか、そのために企業が指導する内容は何かをしっかり従業員に伝えることが大切です。
まとめ
試用期間後の本採用見送りは、企業のリスクが高くなります。直ちに本採用を見送るのではなく、段階的に労使間でしっかりと話し合い、双方合意のうえで退職してもらうことでリスク回避につながります。 ただ人材育成という観点では、試用期間を設けることはメリットになります。リスクを下げつつ、新たに迎える従業員にスキルアップしてもらうためにも、試用期間制度をうまく活用しましょう。
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