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【京都の社労士コラム】知らぬ間に賃金未払い?!「研修」は労働時間?出張の移動時間は?判断に悩む”労働時間の考え方”を解説します。

2026年07月28日

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 A(エース)社会保険労務士法人の足立徳仁です。

 このコラムでは、人事・労務に関する様々なQ&Aや法改正情報、助成金・補助金などの新着ニュースをお届けしてまいります。
 今回は、厚生労働省が公表したリーフレットをもとに、「研修・教育訓練」等が労働時間に該当するかどうかの考え方についてご案内いたします。

 労働基準監督署へは、「社内の研修や勉強会、着替えの時間、移動時間などが労働時間にあたるのか」という相談が数多く寄せられています。
 これらの取扱いを誤ると、未払い残業代の発生や労使トラブルにつながるおそれがあります。今回は、労働時間に「該当する事例」「該当しない事例」を具体的に確認していきましょう。


そもそも「労働時間」とは?

 労働時間とは、使用者の指揮命令下に置かれている時間のことをいいます。使用者の明示または黙示の指示により労働者が業務に従事する時間は、労働時間に該当します。

 ここでポイントとなるのは、労働時間かどうかは就業規則の文言や呼び方(「自由参加」「任意」など)で決まるのではなく、あくまで実態で判断されるという点です。たとえ書面上は「任意」とされていても、実際には断りづらい雰囲気があったり、参加しないと不利益を受けたりする状況であれば、労働時間と評価される可能性があります。

 また、「明示の指示」だけでなく「黙示の指示」も含まれる点にも注意が必要です。上司が直接命じていなくても、業務量やその場の状況から実質的に作業せざるを得ない状態であれば、指揮命令下にあったと判断されることがあります。

 つまり、労働時間の判断においては「会社がどう呼んでいるか」ではなく、「労働者が使用者の指揮命令下に置かれ、自由が制約されていたか」という視点が出発点になります。この考え方を押さえたうえで、以下の具体的な場面を見ていきましょう。



労働時間とは 指揮命令下の概念図
「研修・教育訓練」の取扱い

 研修・教育訓練について、業務上義務づけられていない自由参加のものであれば、その時間は労働時間に該当しません。反対に、研修・教育訓練への不参加が就業規則で減給処分の対象とされていたり、不参加によって業務を行うことができなかったりするなど、事実上参加を強制されている場合には、研修・教育訓練であっても労働時間に該当します。

 実務では、「参加は任意」と案内していても、評価やその後の業務に影響することが暗に伝わっている、あるいは参加しないと必要な知識・技能が身につかず業務に就けない、といったケースが問題になりがちです。こうした場合は「自由参加」とは言い切れず、労働時間と判断されるリスクが高まります。



研修・教育訓練の労働時間判定フロー
厚生労働省のリーフレットでは、次のような具体的事例が示されています。

  【労働時間に該当しない事例】
  • 終業後の夜間に行うため弁当の提供はするが、参加の強制はせず、不参加による不利益取扱いもしない勉強会
  • 会社設備の無償使用許可をとり、自ら申し出て、指揮命令を受けず勤務時間外に行う訓練
  • 会社が外国人講師を呼んで開催する任意参加の英会話講習(業務と関連性なし)

 これらはいずれも、参加が強制されておらず、不参加による不利益もなく、業務との直接の関連性が薄いという共通点があります。弁当の提供のような便宜を図っていても、それだけで直ちに労働時間になるわけではありません。

 【労働時間に該当する事例】
  • 使用者が指定する社外研修に休日参加するよう指示され、後日レポート提出も課されるなど、実質的な業務指示で参加する研修
  • 先輩社員の業務従事を見学しなければ実際の業務に就けないとされている場合の業務見学

 一方でこれらは、会社の指示で参加している、レポート提出など業務としての成果が求められる、見学しなければ業務に就けないなど、実態として業務の一環と評価できる要素があります。「研修」という名称であっても、こうした場合は労働時間として賃金の対象になります。


直行直帰・出張に伴う移動時間の取扱い

 直行直帰や出張に伴う移動時間について、移動中に業務の指示を受けず、業務に従事することもなく、移動手段の指示も受けず、自由な利用が保障されているような場合には、労働時間に該当しません。

 移動時間は「拘束されている」と感じられやすい一方で、その間に労働者が読書や休息など自由に時間を使える状態であれば、通常の通勤と同様に扱われ、労働時間とはされません。逆に、移動中に資料作成や電話対応などの業務を指示されている、あるいは物品の運搬・監視といった役割を担っている場合には、労働時間と判断される余地があります。

 【労働時間に該当しない事例】
  • 取引先敷地内の浄化槽点検業務のため、自宅から取引先に直行する場合の移動時間
  • 遠方出張のため、仕事日の前日にあたる休日に自宅から出張先へ移動し前泊する場合の休日の移動時間

 特に②のように、休日に前泊のため移動する時間は「休日労働では?」と誤解されやすいところですが、移動中に業務指示や業務従事がなく自由な利用が保障されていれば、その移動自体は労働時間にはあたりません。ただし、移動先で前日から業務を行う場合、その業務時間は当然に労働時間となりますので、区別して管理することが大切です。


労働時間の前後の時間の取扱い

 始業前・終業後の時間についても、実態によっては労働時間に該当しない場合があります。着替えや早めの出社などは、「会社にいる時間=労働時間」と考えられがちですが、実際には業務との結びつきの強さで判断されます。

 【労働時間に該当しない事例】
  • 更衣時間…制服や作業着の着用が任意であったり、自宅からの着用を認めているような場合
  • 始業前の時間…交通混雑の回避や駐車スペース確保等の理由で労働者が自発的に始業時刻より前に到着し、始業時刻まで業務に従事せず業務の指示も受けていない場合

 着替えについては、特定の制服・作業着の着用が会社から義務づけられ、必ず社内で着替える必要があるような場合には、その更衣時間が労働時間と判断されることがあります。逆に、着用が任意であったり、自宅からの着用が認められていたりすれば、更衣は労働者の自由に委ねられているため労働時間にはあたりません。

 早朝の出社についても、労働者が自発的に早く来ているだけで、業務に従事せず指示も受けていないのであれば、その待機時間は労働時間になりません。なお、始業時刻前に到着する労働者のために、飲食や待機ができるよう執務室以外の休憩スペースを利用できるようにするといった対応も考えられ、「業務をしていないこと」を外形的に分かりやすくする工夫にもつながります。


仮眠・待機時間の取扱い

 仮眠室などにおける仮眠の時間について、電話等に対応する必要はなく、実際に業務を行うこともないような場合には、労働時間に該当しません。仮眠・待機の時間は、いわゆる「手待時間」と混同されやすく、判断が難しい場面です。

 ポイントは、その時間に労働から解放されることが保障されているかです。名目上は休憩・仮眠でも、実際には呼び出しに備えて緊張状態を強いられ、頻繁に対応が必要となる場合には、労働時間(手待時間)と判断される可能性が高くなります。

 【労働時間に該当しない事例】
  • 週1回交代で夜間の緊急対応当番を決めているが、当番の労働者は社用携帯を持って帰宅後は自由に過ごすことが認められている場合の当番日の待機時間

 この事例では、当番であっても帰宅して自由に過ごせる点が重要です。緊急連絡がまれで、実際に対応する場面がほとんどなく、私生活が大きく制約されていなければ、待機時間そのものは労働時間にはあたりません。

 一方で、頻繁に電話対応や呼び出しが発生し、事実上その場所に拘束され自由が制約されているような場合には、待機時間全体が労働時間と評価されることがあります。実際に対応した時間だけでなく、待機のあり方そのものを確認しておく必要があります。



該当する・しない場面の比較表

労働時間かどうかを分ける判断ポイント

 ここまでの事例に共通するのは、いずれも「使用者の指揮命令下にあったかどうか」という同じ視点で判断されている点です。研修・移動・着替え・仮眠と場面は異なっても、判断の軸は一貫しています。判断に迷ったときは、次の観点を確認してみましょう。

4つの判断ポイント
  • 参加・実施が業務上義務づけられているか(不参加で不利益があるか)
  • その時間に業務指示を受け、業務に従事しているか
  • 労働者の自由な利用が保障されているか
  • 本来業務やその準備・後処理が終了しているか

 これらのうち、「義務づけられている」「業務に従事している」「自由が制約されている」に当てはまるほど、労働時間と判断されやすくなります。反対に、自由参加で、業務に従事しておらず、自由な利用が保障されているほど、労働時間には該当しにくくなります。

 注意したいのは、これらを「会社の名目」ではなく「実態」で判断するという点です。規程や案内で「任意」「休憩」と書いてあっても、運用実態が伴っていなければ意味がありません。日頃から、実際の運用が名目と一致しているかを点検しておくことが、トラブル防止につながります。


まとめ ~労使であらかじめ確認を~

 「研修・教育訓練」等の時間が労働時間に該当するかについては、あらかじめ労使で取扱いを話し合い、確認しておくことが重要です。曖昧なまま運用を続けると、後日「あれは労働時間だった」として未払い残業代を請求されるなど、思わぬトラブルに発展しかねません。

 労働時間に該当しないとする場合には、上司がその研修等を行うよう指示しておらず、かつ開始時点で本来業務や不可欠な準備・後処理は終了しており、労働者がそれらの業務から離れてよいことを、あらかじめ労使で確認しておきましょう。「業務から解放されている状態」であることを、労使双方が共通認識として持っておくことが大切です。

 具体的には、次のような工夫が望ましいとされています。
  • 通常の勤務場所とは異なる場所を設けて行う
  • 通常勤務でないことが外形的に明確に見分けられる服装により行う
  • こうした取扱いの実施手続を書面により明確化する

 これらは、「業務ではないこと」を外形的に見分けられるようにし、書面で明確化しておくという共通の狙いがあります。場所や服装で区別し、手続を文書化しておけば、後から「労働時間だったのか」を判断する際の客観的な材料になります。

 今回ご紹介した事例は個別の事案をもとに作成されたものであり、すべてのケースに一律に当てはまるものではありません。自社の労働時間の取扱いに疑問がある場合は、就業規則や労使協定の整備とあわせて、一度専門家にご相談されることをおすすめします。

 参照 |厚生労働省「労働時間の考え方:『研修・教育訓練』等の取扱い」


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